『けいおん!』9話「新入部員!」備忘録

 

昨年、アニメけいおん!の10周年を記念してTBSでけいおん!1期が再放送されていた。ご飯を食べながら見るアニメを探していたときにそのことを思い出し、去年に途中まで見ていたので、録画を引っ張り出して続きの9話から見た。

自分はけいおん!は完全に初見だったものの、この9話が非常に良く、少し備忘録的なところを書き残しておこうと思う。まあ10年前の、それも大大大ヒットしたアニメなのだから、自分が今書くようなことはすでにすべて言及されているだろうとは思うが、せっかくなので。

 

 

 

 

 

「新入部員!」あらすじ

けいおん!自体の説明は特に必要ないと思うので、この9話のあらすじを大まかに。

 

新入生歓迎会での軽音部のライブを見て入部を決めた中野梓。しかし軽音部は部員はおろか顧問のさわ子先生すらもマジメに練習をせず、ティータイムと称してケーキを食べたりネコミミコスプレをしたりする始末。親の影響で小学生からギターをやっていた梓は、そんな「不真面目」な軽音部に嫌気が差す。それなら学校の外でバンドを組めばいいとライブハウスに足を運ぶが、どのバンドの演奏も軽音部の演奏より上手いはずなのに、梓はなぜ自分があの新歓ライブで自分が感動したのかがわからず、涙を流す。

部室にもう一度足を運んだ梓に対し、4人は梓のための演奏をする。ひとりひとりの技術は未熟でも、この4人で演奏するからこそ素晴らしい演奏になるのだと感じた梓は、再度この軽音部で一緒に演奏をすることを選ぶ。

 

 

けいおん!』の描く彼女たちの在り方

けいおん!では、部活ものではあるものの、いわゆるスポ根路線の上手くなること、強くなることを主題に置いた描き方はなされていない。軽音部に所属する彼女たちの、ときに部室で駄弁ったり、ときにコンビニで買い食いをしたり。そんな楽しい何気ない日常を描いている。しかしこれは、成長や上達の否定と単純な享楽を描いているわけではない。つまり、「楽しければ頑張らなくてもサボってもいいじゃん?」とは少し違うのだ。とはいえ、頑張れ、ちゃんとしろと言っているわけでももちろんない。

この回で示されていることは何かというと、「ライブハウスで演奏しているバンドたちよりも、桜高軽音部の4人による演奏の方が中野梓を感動させた」ということである。彼女たちは技術は未熟ながらも、この4人で演奏することそれ自体に唯一無二性がある。だから梓はそれに惹きつけられたのだ。

それはなぜか?ラストで澪が、お茶飲んだりだらだらすることもあるけど、「それも必要なこと」だと言うセリフが印象深い。彼女たちの日常こそが、彼女たちをバンドとして良いものにしていくために必要なことなのである。

 

アニメ『けいおん!』のすごいところは、この「日常」こそが彼女たちを「バンド」として、さらに思い切って言えば「表現者」として高みに押し上げているんだということを、全編に渡る非常に高品質の「日常作画」と「日常演出」によってバッチリ説得力のあるものに仕上げている点だと思う。それらの積み重ねの結実が、新入部員を迎えるこの9話で花開いたと言っていいだろう。毎回のOPとEDもまた、彼女たちが彼女たちとして演奏しているものであり、いわば彼女たちの在り方が「正しい」(アニメの主題歌として申し分ない曲を演奏している)ことの証明とも言える。

 

 

『Don't say "lazy"』というED主題歌

今さら説明の必要もないこの曲だが、あらためて聴くと、イカした曲調にカッコいい歌声、のわりに歌詞は妙に甘っちょろい感じがあるのが不思議といえば不思議だった。もちろんそれがこの曲のいいところだと言えばそれまでなのだが、この9話を見て、やっとこの曲がこのアニメのED主題歌となっている意味を理解した。

すなわち、「Please don't say "You are lazy"」は、厳しく練習をしようとする中野梓に向けた歌詞だ。4人で放課後のティータイムを楽しむということが、彼女らにとっての「王道」だったわけだ。もう2020年にもなってこんなことをドヤ顔で言うのは恥ずかしいったらありゃしないのだが、この『けいおん!』9話を見て、初めて10年前から聴いていた曲のピースがハマった感覚が非常に気持ち良かった。「大事なのは自分 かわいがること 自分を愛さなきゃ 他人(ひと)も愛せない」なんだよな。桜高軽音部がアニメの主題歌を歌うほどになっても、彼女たちの中にはそうした彼女たちの在り方が息づいているということがうれしい。

 

 

あずにゃん

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あずにゃんこと中野梓、いや中野梓ことあずにゃん。オタクたちの間の呼称だとずっと思ってたのに、劇中で普通に「あずにゃん」って呼び始めてひっくり返った。あんなことしたらそりゃあ猫も杓子もあずにゃんになるわな。ただ、ネコミミをつけたあのシーンで「軽音部へようこそ!」と言われるのはかなり納得感も強く、同じようにコスプレをさせられるすることで仲間になるという描き方は、なんだろう、同じ穴の狢みたいな……。同じ釜の飯を食った仲の方がいいか。新入生歓迎の際、4人は動物の着ぐるみに入って新歓をしていたので、動物つながりというところもあるだろう。*1

いずれにせよ、親の影響で子どものころからギターを弾いてきた中野梓が、みんなで楽しくやることを主題においた軽音部に入って「あずにゃん」となることは物語においても重要なポイントだった。また、立ち位置的にこれまでの在り方に一時的とはいえ対立するキャラクターになるので、嫌われないためにもあざとくかわいく描こうとした面はあったのだろう。その結果ここまでの象徴的なキャラクターになると、どこまで予想していたかはわからないが……。

 

 

 

10年越しの初視聴で言うのもなんなのだが、はっきり言って抜群に出来がよく、これは流行るし売れるわと毎回思わされる。まだ1期9話なので、一気見とは言わないまでもじっくり2期までは見ていきたいと思う。 

 

 

*1:今思えば帰宅部活動記録で、アザラシ(原作ではチュパカブラ)の着ぐるみを着て新入生の歓迎をしていたのもけいおん!のオマージュだったのか。けいおん!以前に元ネタはありそうだけど。