『アイドルコネクト』の『Star*Trine』 —セピアがカラフルに変わる夜—

 

この日我々が持ち寄ったものは、感謝でつつんだ諦念だった。

しかしそこで我々が見たものは、本物と、そして未来だった。

そして我々が持ち帰ったものは、幸福と、確かな希望だった。

 

あるオタクの日記 2017年9月17日

 

 

結論から言おう。アイドルコネクトは復活した。

終わりの日は始まりの日だった。別れの日は出会いの日だった。アイドルコネクトのユニットソングCD、そのアルバムのタイトルを覚えているだろうか。

 

————『初めまして、大好きです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

2017年9月17日、昨年11月いっぱいをもってサービスを終了したソーシャルゲーム『アイドルコネクト -AsteriskLive-』の初めてのライブイベントが、先月発売されたCD『Star*Trine』のリリースイベントとして行われた。出演者は、春宮空子役森千早都さん、瀬月唯役相坂優歌さん、高花ひかり役芝崎典子さんの三人である。本記事は、主にそのリリースイベントとそしてその前後の私の想い、そしてアイドルコネクトに関するもろもろの少しを書き記すものである。

私のアイドルコネクトについての想いや、このイベントに対する想いは、先月CD発売の少し前に書いた以下の記事を見ていただきたい↓

 

nun-tya-ku.hatenablog.com

 

この記事で書いたように、私は今回のイベントが本当のお別れのときだと覚悟していた。ゲームが終了してから約10か月。ストリエでのストーリー更新や、未発表曲収録CDの発売、そして今回のライブイベントと、"終わった"コンテンツのファンからすれば望外な幸せと言ってよかった。そしてもう、今回こそは…… 表向きには感謝を、心の中には覚悟を。私は台風を先導するかのように、関西から秋葉原へ向かった。

この日、私は節約のためと新幹線は使わずに鈍行で向かった。だが本当は、秋葉原に着くのがこわかったのかもしれない。行きの電車の窓から見た景色は常に灰色で、電車に揺られながらひたすらに聴いていたアイコネの曲たちは、そのかわいい歌声とは裏腹に、あたかもレクイエムであった。魂を鎮められるのは、アイコネか、それとも私自身か。

台風接近の折柄、もし在来線が止まりそうになれば迷わず新幹線に乗り換えようと心の準備はしていたが、結局熱海あたりまではほとんど雨も降らず、15時ごろ無事に雨模様の秋葉原に到着した。秋葉原に着くとまずはお三方に渡すお手紙の清書をし、そしてオタクと合流。これから行われるライブに対する楽しみな気持ちと緊張感と、そしてほんの少しの沈痛な思いを胸にしまい、アイコネの思い出話などをした。イベントは20時から。19時過ぎに店を出て、イベント会場へと向かった。

 

会場に着き、イベントスペースを見渡すと、たくさんの席、フラスタ、そして撮影用のカメラ機材と、リリースイベントとしてはなかなか立派なものであった。私は席に着き、開演までの30分をなんとも言い難い気持ちのまま待った。とっくにサービスが終了したゲームのライブにこれだけの人が集まっていることは単純にうれしかったし、ここにいる人たちの抱える気持ちに思いを巡らせたりもした。しかしその場の空気は、待ちに待ったイベントを前にした高揚感の下を漂うように、寂しげなため息をはらんでもいたように感じた。

ここで私の関心事は、なんといっても今日がどういうイベントになるのかということであった。『Star*Trine』は歌うにしても、それ以外の曲は歌ってくれるのだろうか。私の願望は『Star*Trine』に加えて3人がソロ曲を1曲ずつ、そしてメモリアが3人中2人来ているので、メモリアのユニット曲を1曲の計5曲というものであったが、正直『Star*Trine』だけ歌ってあとはトークで終わりというのもありえるだろうなとは思っていた。『Candy Star☆ミ』が聴きたいなあなどと期待とも言えないような思いを抱いていると、20時になりついにイベントは始まった。 

 

 

 

何度も聴いたイントロが会場に流れる。

『空になるよ、このハピネス。』

アイドルコネクトのセンターと言える春宮空子のソロ曲。

不意を突かれた。開幕からMCなしでいきなり曲を、それもソロ曲をやってくれるなんて。本当にライブに来たみたいじゃないか、そう思いながらゴソゴソとペンライトを取り出し、赤く光らせたそれを夢中になって振った。森千早都さんが、春宮空子が、自分と同じ空間で空ハピを歌っている。しかもちゃんとダンスをしている。自分は今、歌って踊る春宮空子を見ているんだ。それがただただうれしかった。

 

「例え空になれぬとしても 手作りでも、憧れでも、 この流星なら消えない」

「もしもいつか、手渡しても 消えることのない メモリーモリー

 

空ハピの歌詞である。そうだよな、消えないんだ、そんなことを思った。

 

そして画面は暗転し、森さんに代わり次のシルエットが見えた。照明が点く。

『spica heart』!!!

大好きな曲だ。アップテンポで明るい曲でもあり、空ハピのときはまだ戸惑いも感じられた会場もここにきてスイッチが入ったように盛り上がる。私は接触不良で調子の悪いペンライトをしまい、徒手空拳に切り替えた。芝崎典子さんは高花ひかりだった。ニコニコ笑顔で歌い上げ、2番に入る前の「Come on !!」のところは最高に楽しかった。「ヒカリ目指せ」の歌詞で指を前に突き出すところもめちゃくちゃよかった。

 

「ハチャメチャ近道 進むしかなくない? 見つけた未来へ 今走り出せ Yeah!!」

 

そして曲が終わり芝崎さんははけ、代わりに相坂さんがステージに立つ。暗転したステージ上に立ち、曲の始まりを待つそのシルエットは、まさにアイドル瀬月唯であった。このシルエットを見た瞬間、私は今自分はアイドルコネクトのライブに来ているんだ、と強く感じ、涙があふれてきた。曲が始まる。

『恋スル私←New!』

憂うような表情、スッと伸びた指、透き通るような歌声、そこにいたのは紛れもなく瀬月唯だった。ため息が漏れた。何度も見たゲームでの振付けが目の前で見られて感動した。2番の「重ねて見ちゃって 君に電話」のところで耳に手を当て電話をするような振付けが本当に最高で、恋スル私をこれまで何度となく聴いていて頭に思い浮かべたことが今目の前で行われているということに頭の中が幸せな感情でいっぱいになった。

 

「好きな食べ物とか 思い出の場所 全てを見るたびに 君を思い出すよ」

 

ところで『恋スル私←New!』には少し特別な思いがあった。

これはアイコネのCDを遅ればせながら購入し、初めてフルで曲を聴いたときのつぶやきである。曲名が間違っているのはお許しいただきたいが、それはそれとして、このときに見えたものは妄想なんかではなかったことが、見間違いなんかではなかったことが、本当にうれしくてうれしくて、始まる前のシルエットを見たときにあふれた涙は、歌の間ずっと止まることはなかったのだった。

 

まさに夢のようなソロ曲3曲が終わり、ステージ上には3人が集まる。まずは自己紹介から。なんでもない、なんでもない自己紹介のはずなのに、こんなにうれしい自己紹介は他にないだろう。3人ともゲームの収録からは1年は経っていたであろうのに、バッチリキャラの声で自己紹介をしてくれたことが、本当にうれしかったのだ。春宮空子、高花ひかり、そして瀬月唯。相坂さんが「子猫ちゃんたち」と王子様モードの唯をやってくれたときは、自分が女だったら昇天していただろう。男でもあれはダメだ、恋に落ちてしまう。

相坂さんはアイドル的な役をするのが初めてで、これからライブとかできるのかなーやりたいなーと思っていたらまさかの「いろいろあって……」サービスの終了。もう唯として歌うことはできないのかなと思っていたら今回のイベント。話が来てすぐに返事をして出演に至ったとのこと。話が来てすぐに出演を決めたというエピソードが、唯のこと、アイコネのことを今でも好きでいてくれているんだ、ということがうかがえて私としては本当にありがとうという気持ちになった。

森さんはオーディションで空子のことをかわいい、このキャラをやりたい!と思ったことを話してくれた。そのとき隣で森さんの方を見ながらひたすらうんうんと頷いている相坂さんが印象的だった。

芝崎さんはこうしたステージで歌うのは初めてで緊張したという話。しかし正直、先ほどの「spica heart」は初めてとは思えないほど見事なステージだった。会場からは「推せるー!」の声。思えばこのときすでにイベントに来ていた人たちは芝崎さんのオタクになっていたのだった。

 

実はここで私は一つだけ残念に思っていたことがあった。空子のもう一つのソロ曲『青春ハイタッチ』のことである。私はこの曲が大大大好きで、この曲を聴いて何度も笑顔になることができた。願わくば『青春ハイタッチ』を生で聴きたい、そう思っていたのだが、すでにソロ曲は1曲ずつ歌われており、さすがにソロ曲を2曲とも歌うということはないだろうと思っていたので、この時点でもう『青春ハイタッチ』は聴けずに終わりかな、それでもあの3曲を聴けたんだから一つも文句はないけれど…… と思っていた。

 

しかし、である。3人の挨拶が終わると相坂さんはこう言った。

「まだ終わりじゃないからね!」

盛り上がる会場。まさかと思う自分。そして相坂さんは森さんに「空子がんばれ」と言って芝崎さんとともにステージからはける。おいおい、本当にやってくれるのか?このときにはもう、気持ちは抑えられないところまで来ていた。そしてステージに残った森さんが言う。

「みんなで一緒にハイタッチしましょう!」

やった。やったやったやった。その一言は、どんな天使の言葉よりも優しく、そしてうれしく響いた。私は骨が砕けんとするような勢いで手を叩いた。(近くにいた方すみませんでした)

 

手を顔の横に当て、曲が流れるのを待つ森さん。準備はできているが今一つ裏とタイミングが合わず苦笑いだ。そして曲が始まる。——『青春ハイタッチ』!!!

「1,2,3,4,2,2,3,ハイッ!」♪~「Let's go!」

本当に幸せだった。「幸せ、届けー!」というのは空子の印象的なセリフであるが、届いている、幸せは確かに届いている、そう伝えたい。「待ち合わせの駅でハイタッチ」のところでハイタッチをする振付けのところで自分も右手を挙げてハイタッチをした。空子とこうしてハイタッチすることができるときが来るのか。現実もフィクションも、そんなものはもう関係がなかった。

 

「当たってくだけろで良いから 思い切り手を振って 当って駆け抜けるトンネル 出口はそこだ! 叶えたいって想いが 君を強くする 大丈夫!!」

 

「叶えたいって想い」

つい数分前までの、『青春ハイタッチ』を聴きたいと望んだ自分が見えた。 アイドルコネクトのライブに行きたいと思った自分が見えた。アイドルコネクト終わらないでくれと願った自分が見えた。私は強く、なっていたのだろうか。いや、大丈夫だ。

曲の最後、空子はふぅ~~~と手に乗せたものを客席へと吹きかける。あれは希望か幸せか。私たちは、確かにそれを受け取った。

 

そして次はこの曲だ。芝崎さんがステージに上がる。

『あなたらしく、私らしく』

『spica heart』とは違いゆっくりとしたテンポの曲だが、優しく語り掛けるような曲調と歌詞が全身に染み渡る。リズムに合わせて腕を高く突き上げる芝崎さんが本当にかわいかった。気を抜くとすぐに芝崎さんかわいかったになってしまうのはご容赦いただきたい。ずっとニコニコしているのが最高にかわいい。

 

「明日のことで悩んでないで 今日のランチは何にしようか? 見えない不安を恐れてるより 今を楽しまないと」

 

今このときを楽しむことを肯定してくれるような歌詞が、これまでこの曲を聴いたどのときよりも深く刺さった。

 

そして、曲が終わり、相坂さんがステージに。あれが、あの曲が来る。イントロ前のクリック音。唯の歌声が響く。

『WHITE PAGE』

たまらない。この曲は、2曲目のソロ曲のうち、唯一ゲーム内に収録されていた曲だった。だからこそ、こうやって今生で曲を聴くことができているのが本当に夢のようだったのだ。もちろん、前半にやったソロ曲3本もゲーム内に収録されていたわけだが、『WHITE PAGE』はその歌詞とも相まって、何か特別な、そんな位置づけが自分の中でなされていたように、ずっと感じていた。本当にこの曲を歌う相坂さんが、瀬月唯が、カッコよくてきれいで…… そしてなんといっても、「呼び声は キラキラ輝く姿でずっと」のところで手を顔の横で横に振る振付けが最高だった。これはゲーム内のMVでも非常に印象的な振付けであったのだが、CDが出てからフルで聴くときも、いつもこの箇所では頭の中に残っているあのMVのように手を振っていたものだ。それが今、目の前で見られているという感動。私も唯に合わせて振りをやった。こんなに幸せな振りコピはない。

 

「君とキラキラキラめく 未来でずっと みんなのために歌って あの日の私も大事な記憶 忘れないよ 光差す 涙の向こう」

 

「光差す 涙の向こう」 この歌詞で締めるのがズルい。あふれる涙を拭おうともしない私は、この向こうにある、光差すものに思いを巡らせた。

 

 

この日出演した3人のソロ曲、全6曲をすべて聴くことができた。予想を大きく上回る、最高の体験だった。幸せに包まれたまま、明るくなったステージに3人が集まる。

するとここで。スクリーンが降りてきて、アイコネのスタート画面が映し出される。

ザワつく会場。重大発表?いったいなんだと言うのか。私はただ、次の言葉を待った。

 

それは、"未来"だった。

 

アイドルコネクトのノベルアプリ化決定の発表だった。それが知らされると、会場は爆発的な歓声と、割れんばかりの拍手に包まれた。相坂さんは戸惑ったように「ノベルアプリだよ?勘違いしてない?」と訊くが、その場にいた誰もが、ノベルアプリだということを認識した上で歓声を上げていた。アイドルコネクトのアプリがまた出るということ、そしてノベルアプリで彼女らの物語がまた紡がれるということ。本当に不意打ちだった。まさか本当に、このリリースイベントで次につながる発表がなされるとは。

「アイドルコネクトが終わらない」

このことが、一体どれだけうれしかっただろう。あのときの会場の空気は、開演前のあの空気とはまったくもって別物になっていた。我々の心にもはや諦念はなく、未来への希望と大きな感謝が会場を包み込んでいた。あのときの森さん、相坂さん、芝崎さんの気持ちはどんなものだっただろうか。そして後ろにいた、社長を含めた関係者たちは、どんな気持ちになっただろうか。少なくとも、伝わっていたことは確信できる。心からの思いが激しく共鳴し、大きくなり、伝わる瞬間。そんな瞬間を肌で感じることができたのだ。あの空間に居られたことは、アイドルコネクトということすらも超えて、はっきり言って人生の財産になったと思う。

 

そしてついに、最後の曲になってしまう。イベントが終わってしまうことはもちろん寂しいが、それは開演前に想像していた気持ちとは違ったものだった。そしてただ、最高の気持ちでこの曲を楽しもう、そう思った。

『Star*Trine』!!!

この日初めて、3人が一緒にステージで歌う。歌も、ダンスも、最高のパフォーマンスと言うほかなかった。この日のために3人で練習を積んでいたのだ。それが感じられることが本当にうれしかった。もう会場のボルテージは最高潮で、全員が最高の気持ちでこのライブを楽しんでいたはずだ。曲のどこかで、相坂さんと目が合った(と感じた)。もう、最高だった。サビ終わりの「当たり前の想いに ゆびきりをした」で小指を前にのばす振付けがめちゃくちゃ良かった。あの場で3人とゆびきりをしたのだ。ならばもう、信じるしかないだろう。

そしてなんといっても『Star*Trine』の歌詞が、今このときのアイドルコネクトそのものであるかのようで、ただただ圧倒されてしまった。

 

「『届けて』繋げていたい 星が足りなくても キミに放つ スタートライン」

「『可能性』にtouch! 『果て』までLink! セピアをカラフルに変えて」

「『弱気』にgood bye! 『はばたけ』sing! カラフルを虹へと変えて」

「『届けて!!』 終わりの場所気づいても 星をたどり(星座結び) つなげていくの*キミ*まで!」

「あの月のように 夜をともしつづける 「笑顔をあげたい」 ただ一つの願いを 信じ続けた」

「『信じて…』 明日に光があるなら 繋がってく(繋がってく!) もう迷わない*ワタシ*へ!」

「初めの気持ち、無限の夢に変わる」

 

実は、初めてこの曲を聴いたときから、曲どうこうよりも「この曲でアイドルコネクトは終わってしまうんだ」という思いが先に来てしまい、素直な気持ちでこの曲を聴くことができていなかったと、今振り返ってみてそう思う。それが、今日の最高のライブを、そしてノベルアプリの発表を経て、目の前で最高のパフォーマンスとともに届けられると、見事に「セピア」が「カラフル」に変わって見えた、変わって聴こえた。どこか空々しく聞こえた歌詞は、すべてが鮮やかに色を放ち、本当の姿がそこに現れる。我々は「ただ一つの願いを信じ続けた」のだ。それがこれから「無限の夢に変わる」のだ。いつかこの「カラフル」が、きれいな「虹」になって大きな橋を空に架けることを信じて。

イベントが始まるまでは、(この曲、ちゃんと盛り上がれるかな……)と不安にもなっていた。しかしその場にいたみんなが最高に盛り上がっているのを見て、もちろん自分も最高に盛り上がっていて、それを自覚して、本当に、本当にうれしかったのだ。

『Star*Trine』が本当に「スタートライン」になった瞬間であった。

 

ライブは終了し、3人はステージを降りていく。会場からは本物の拍手と歓声、そして心からの「ありがとう」の声。それに応える3人。そして相坂さんはこう言った。

「またね!」

その言葉が、演者の方からその言葉が聞けたことがどれだけうれしいか。今日ここに来て本当によかった。そして、絶対に次があるのだ、そのことを強く感じた。

3人が見えなくなり、会場の電気がすべて点いても、大きな大きな拍手は鳴りやまなかった。このとき、ここにいる人たちの気持ちは一つなんだと感じた。これほどに力のある拍手を、私はこれまで体験したことがない。これこそが本物なんだと、心から思った。

 

興奮冷めやらぬまま退場となる。ふと会場の後ろを見ると社長が誰かと固い握手を交わしていた。その表情を見るに、私が感じた本物は嘘なんかじゃなくて、社長にも絶対に届いたのだと確信できた。本当にこんなことがあるのか。まだ夢の中にいるような気持ちだった。

階段を下りていると後ろから声が聞こえた。「今日ほんとに来てよかったねー!」

私はそれを聞いて、また泣いてしまった。その声にもはや終わってしまった悲しみはなく、幸せと満足感を詰め込んだような声だったからである。

 

店の前の道に出て、開演前に合流したオタクと再度顔を合わせる。そこからは感情があふれ出すのを止めることができなかった。もはや日本語を話すことは不可能で、顔は幸せそのものであった。ただひたすらずっと、「うれしい、うれしい」「終わってからこんな気持ちになれるなんて」と言い合っていた。

 

 

こうして特別な日は幕を閉じた。正直に言ってイベントが始まる前までは、このイベントが終わってから自分はアイドルコネクトとどう向き合えばいいのか、想像ができなかった。考えたくなかったと言ってもいい。しかし今、こうして明るくアイドルコネクトのことを語れていることが、本当にうれしいのだ。もちろん、次に出るノベルアプリが上手くいく保証はない。マネタイズだってどうなるかわからない。結局はただの延命でしかないのかもしれない。

客観的に見れば、それは正しいだろう。そして、アイドルコネクトというコンテンツが崖っぷちにいることも、その通りなのだろう。

しかし、あの場にいたことで、明らかに何かが変わるのを感じたのだ。それは言葉で表せる類のものではない。だが、あそこにあったのは本物だった。

だから私は、「信じる」ことができる。私は人生で初めて、「信じて」いる。アイドルコネクトのことを。あの場にいた人たちのことを。

 

 

 

翌日、台風が過ぎ去った東京は暑い日差しを浴びながら晴れた空に包まれていた。

私は中央本線を走る小淵沢行きの列車に乗る。

窓から見える四角の景色は、昨日見た灰色のそれとは違い、鮮やかな色を放っている。青い空、白い雲、緑の山々。そしてアイドルコネクトの曲を聴く。イヤホンから鮮やかな音が流れ込む。昨日まで何度も聴いていたはずの曲が、すべて違って聞こえてくる。

こんな経験は初めてだった。私は車内で涙をこらえることができなかった。昨日生で聴いた曲はもちろん、そうでない曲も、「セピア」が「カラフル」に変わっていた。昨日の夜を境に、世界が変わっているのだ。いつか、すべての曲を生で聴きたい。そんな絵空事のような望みは、信じられる願いに変わった。私の心はとても大きな"幸福"と、確かな"希望"を手に入れていた。