映画『ポッピンQ』感想 ―23歳男子大学院生の中の15歳女子を呼び覚ませ―

 

『ポッピンQ』を観てきた。

正直そこまで期待はしていなかった。飲みに行く約束をしていて、その前になんか映画でも観ますか、くらいのノリだった。映画の話をきっかけに今年のアニメの振り返りでもしよう、そのためにはむしろそのくらいがちょうどいいだろう、というほどの気持ちまであったかもしれない。

素直に謝りたい。

結論から言うと映画は抜群にいいもので、結局居酒屋ではほぼ終始『ポッピンQ』の話をして楽しい時間を過ごした。

 

まだ観てないよ、という方には、是非余計な前情報なしに観てほしい。声優誰々が出るらしいし観るかー。このくらいのスタンスで観てほしい。なんかダンスするらしいけどダンスなー、どうなんだろうか。ダンスで世界救うってなんだよ。そう、このくらいのスタンスだ。

 

ただ一つだけ、絶対にこれだけは心に留めて観てほしいことがある。

大人の目線で見ないこと。自分を主人公たちと同じ15歳の女子にして見ること。

一つと言いながら二つだが、まあこれは二つで一つである。

 

それも、斜に構えた15歳ではない。かわいいものを見てかわいいと言い、カッコいいものを見てカッコいいと言い、ストレートを見て真っ直ぐだと言う、そういう15歳である。いきなり15歳になるのは無理だろう。それでいい。だが最後まで実年齢のあなたのままで見ないでほしい。上記のことを心に留めていれば、物語が進むにつれ、どこかしらの地点で15歳になれるはずだ。何言ってんだコイツ、という方は、ちょっとイメージトレーニングをしてから映画館に足を運んでほしい。斜に構えた見方ではなく、いつの間にか同じ目線に立って素直に楽しむイメージ。誰しもそんな経験があるはずだ。それでもイメージできなければ仕方ない、この映画でそうなってもらうほかない。

 

せっかくお金を払って時間をかけて映画館に行って映画を観るのだ。評論家気取りなんかのためにお金を無駄にするのではなく、めいっぱい、最大限に楽しんでほしい。人間はそれができるはずだ。

 

 

映画が始まり、はじめは23歳の自分が見ていた。だがいつの間にか23歳の自分はどこかにいってしまい、映画館の席に座って画面を見つめるのは15歳女子の魂だった。それでも時折23歳が顔をのぞかせ、シニカルな笑いを見せようとする。いやしかし15歳女子はそんなものははね飛ばし、ストレートを真っ直ぐに受け、真っ直ぐに涙を流す。ただ悲しいかな、23年間生きてきて顔に染みついたオタクスマイルだけは魂が変わってもどうにもならず、現実世界にいるのはニヤケ顔が収まらないままにボロボロ涙を流し続ける23歳である。

それでもいい。たとえ外見は変わらないとしても、魂まで凝り固まらなければ。

 

以下、ネタバレを抑えずに感想を軽く記す。未見なら、できれば以下は見ずに『ポッピンQ』を観てほしい。未見にもかかわらず以下を読んでしまったら、償いとして『ポッピンQ』を観てほしい。『ポッピンQ』を感じるのに、作品を見ずに私の言葉をもってそれに代えることはできないからである。嗚呼、宮原監督の注いだ愛情、熱情、時間に比して、私の小手先で紡ぐ言葉のなんと陳腐で退屈なことか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

できればとか書きましたが、未見でしたら本当に以下は読まずに映画を観てほしいです。どうしても読みたくなったら、上の「これだけは心に留めて観てほしいこと」を心に留めながら映画館で『ポッピンQ』を観てください。そうしたら、思う存分全部読んで構いません。いやむしろ読んでください。

あ、ただ最後の5行だけは未見の方にも読んでほしいです。目をつぶって一番下までスクロールすれば大丈夫ですが、好奇心に負けて目を開けてしまうかもしれません。自信がない方はやっぱりここで引き返していただいて、映画を観てから思う存分スクロールしてください。

 

次こそ、以下ネタバレあり感想です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正直中盤までは、退屈とまでは言わないにしても、世界観説明やキャラの掘り下げがあまりに不十分ではないだろうかという気持ちがあった。主人公伊純は別にしても、その他の4人は現実世界でのほんの少しの描写のみでとても感情移入とまではいかない。ましてや沙紀に至っては終盤まで碌にセリフもなく画面にもほとんど出てこない。ポッピン族の世界が多数の時空のハブ時空だとして、なぜ伊純たちの時空にだけ時のカケラが4つとも(レノを入れれば5つ)あったのか、他の時空はどうしたのか。というようなことだ。

23歳の自分が観ていた間の感想である。まあオリジナル作品であり尺も限られているということ、また一応は低年齢層もターゲットに組み込んでいるところを思えば十分目はつぶれる範囲であった。これらの点については、いくらでも指摘ができるだろう。最後まで23歳だったら、「まあよかったところもけっこうあったけどさすがに穴が多いかな…」みたいなしょうもない感想で終わっていたのかもしれないと思う。

 

だが沙紀とレミィを助け出すためにアジト(?)に乗り込んだあたりからスイッチが切り替わったらしい。そのあたりからは終始ニヤケたままラストまでいってしまった。

アジトでの戦闘で覚醒した4人は特殊能力に目覚める。まあここも23歳が見たら「?」なわけだが、ここでの特殊能力で4人の個性みたいなもの、4人のキャラクターをどう動かしたいのか、ということがストンと入ってきて、もうあとは15歳女子になって楽しむだけになった。「キグルミ」の中にポッピン族のちっちゃいのが詰め込まれてて、結び目を外せば開放されるというギミックも素直で好きだった。だからだんだんデカい敵が増えるのか、と。

 

そこからは「それ好き…」というシーンが立て続け。冒頭の両親に反抗する伊純に対しておじいちゃんが言った言葉を繰り返してみるシーンとか、橋が落ちるまえに渡り切るシーンとか…… 特に後者はベッタベタの展開なのだけど、初めは伊純に対し(というか全員に対し)心を開いていなかった蒼が伊純を信頼しているところとか、過去の苦い記憶に向き合わされて、そしてそれを乗り越えるところとか、抜群。あまりに都合のいいシーンすぎるのだが、あそこであれを素直に楽しめないような大人ばかりなら、この世はあまりに息苦しすぎると思ったりする。

 

屋上の黒沙紀のシーンも大変よかった。あったのかなかったのかわからないような、いやそれでもおそらくはあれが確かにそうだったんだろうななどと思う、そんな青春を本当にいつの間にか遠いところに置き去りにしてしまった、そんな過去のティーンエイジャーたちにグサグサ刺さるシーンだった。永遠に今をやり直せる、そんなことができたならいったいどうなるだろうか。大人は過去に戻りたいと言い、永遠にやり直せるならいいじゃんと考えるものだ。私もそう。昔に戻って永遠にやり直せるなら、なんて考えない大人はいない。でも、沙紀は前に進むことを選ぶ。もはや完全に15歳女子になっていた私は大きく頷く。「そうだ!そうだ!進む先は前だ!明日だ!!未来だ!!!」

 

そして奇跡のダンス。もう15歳女子なので言うことがない。最高。「ダンス3分のための1時間半です」と宮原監督はパンフレットのインタビューページで語っている。その通り。さすが監督、最高の分かり手である。

 

現実世界に戻って卒業式前後のシーン。個人的にはここが最高潮である。ボロボロどころかダバダバ泣いていた。伊純がナナに謝り、そしてナナは今度も負けないからと言ったあと向こうを向いたまま手を振るシーン。その向こうを向いたまま手を振るところがいい。先に行くぜ、ついて来いよ、追い越してみな、嗚呼あれぞ15歳。12歳でも、18歳でもない。15歳の味がある。そして両親とおじいちゃんとのシーンも素直に良い。ひねくれていて反抗期、だけどやっぱりその中心には子どもの素直さを持ち合わせている。それが15歳ってもんだろう。12歳は子どもに過ぎ、18歳は大人に過ぎる。23歳なんて15歳に比べれば干物もいいところ。23歳のままあれを理解しようってのは、まあ無理なわけである。いわんや30代をや。ただし40代くらいになって子どもを育てる経験をすれば、また違った視点から15歳がわかるんだろうなあという気持ちもある。そして後輩女子美晴との卒業証書筒をバトンにした(!!!)リレーのシーン。もうね、大好き。しかもそれも普通にバトンをつなぐのかと思いきや、走り抜けて「追ってこい!」である。未来を託すのは次の世代なんかではない、自分自身なのだ。何度も言うようで大変申し訳ないが、18歳ならこれは成立しないだろう。

 

もちろん伊純以外の4人のシーンも良い。楽しそうにピアノを弾く小夏、合気道に絞ったあさひ、落書きを消し、晴れやかに踊る沙紀。クラスメイトにサインをせがまれる蒼には笑ってしまったが。蒼、陰で嫌われるタイプじゃなくて陰で人気あったタイプなんだな。まあめっちゃイケメンだしかわいいしそうなるよな……

 

そしてEDの歌の歌詞である。普段なら恥ずかしくてまともに聞いていられないようなズバズバストレートド直球。「さよなら。ありがとう。卒業という名のはじまり 新しい明日が待っているから 僕たちは旅立つ」だぞ!? これ、この映画を観た後だったらドバドバ泣けてしまう。すごい、これが映画の主題歌ってやつなのだ。歌詞についてはダンスのときの歌ももちろんそうだ。(正確にはこっちの方が主題歌らしい)

 

 

終わりだと思った。終わりだと思ったはず。最後のあれに関しては、すごい、これ、やっちゃうんだ、でも、すごいなあ…… という感想。肯定的感想。最後の一言、これやっぱりすごいな、と。

「君は、どうする?」

どうする?なんて言われたって…… まあもういっぺん観に行きますけど……

 

 

正直まだまだ言いたいことはたくさんある。軽くと言いながら全然軽くないのはまあよくあることだ。声優のキャスティングは見事だったと思う。木戸衣吹はいないが山崎エリイがいる、小倉唯はいないが石原夏織がいる。後輩は田所あずさ父親小野大輔。頭のいいキャラクターに井澤詩織をぶつけながら、心を閉ざした消滅願望少女にはもうやっぱりやっぱり黒沢ともよ。ああキャスティングの妙。ここにもいたかM・A・O、そしてそして若々しいポッピン族に溶け込むベテラン新井里美

 

このくらいにしておこう。沈黙は金、雄弁は銀、オタクのしゃべりは一回戦敗退だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでは最後に。パンフレットに載っていた新井里美さんのメッセージが、私がこれまでつらつら書いていた文字たち全部よりも何よりも、私の言いたいことを言ってくれている。それを引用させていただいて終わりとしたい。

 

「10代の女子、これから10代になる女子

かつて10代だった女子や男の子にも観てほしいです」