アニメ『灼熱の卓球娘』における記号と名付けとキャラクター、そしてメインとモブ

○はじめに

今期のアニメも中盤にさしかかろうとしている。

今期もそれぞれに魅力的なアニメがあり、アニメ視聴を楽しんでいるわけであるが、今回はその中でも注目しているアニメの一つ、『灼熱の卓球娘』について少し書いてみたい。

 

この記事を書いている時点でアニメは5話まで放映され、私も5話まで視聴した。視聴していて気付く方も多いと思うが、このアニメの特徴の一つに、「記号的表現がふんだんに使われていること」というのが挙げられる。この「記号的表現」の多用、そしてキャラクターの名付けに見られる特徴も手掛かりにしつつ、このアニメが意識するところへの自分なりの一考察を加えてみたい。

 

なお、私は原作未読であり、この文章においてはアニメ5話までで出てきたシーンのみを参照して書いていること、また原作つきアニメという性質上、アニメからでなく原作からも指摘できるようなことも含まれているであろうということは初めにおことわりさせていただきたい。

 

 

第一章 キャラクターと記号的表現

「はじめに」で書いたとおり、このアニメでは記号的表現(アニメ的表現と言い換えてもよい)が多用されている。そして、それらの多くはキャラクターと紐付ける形で用いられることに気付く。

例えば印象的なのはメインキャラたちの髪留めである。上矢あがりは上向きの矢印、旋風こよりは犬のくわえる骨、後手キルカは白い髪留めを✕印のようにして、そして出雲ほくとはニンジンの髪留めを、常に着用している。またキルカは白いバンダナを巻いているし、ムネムネ先輩はカチューシャをつけている。天下ハナビに関しては髪留めではなく首から下げた御守りがその役割を果たしている。

わかりやすいのは上矢あがりだろう。後にその名前との関連性も述べるが、上向きの矢印の髪留めは彼女の上昇志向、ここでいうところの「誰よりも強くなりたい」「エースでいたい」という気持ちを鮮やかに主張している。キルカの✕印も彼女のカットマンというキャラクターを示すものであろうし、こよりの(犬がくわえるような)骨は、彼女の人についていくような性格・プレイスタイルを表している。また、犬は彼女の優れた「嗅覚」を意味するというのもありそうだ。他のキャラについてはまだはっきりしたことは言えないが、追々それらの意味するところが鮮明になるかもしれない。注目して見ていきたいし、注目して見てもらいたい。

また、これらのメインキャラ6人にはそれぞれを表す色、そしてまさに記号が充てられている。これらはOP映像にはっきりと示されているので確認していただきたいのだが…

まず、色についてはそれぞれのキャラクターの髪色と一致していると考えていいだろう。あがりは紫、こよりは赤、キルカは黒、ムネムネ先輩はピンク、ハナビは黄色、ほくとは水色である。

OP映像では6人のメインキャラクターにそれぞれ立ち絵のカットがあり(タイトルロゴ前にこよりとあがり、タイトルロゴ後Aメロでハナビ、ムネムネ先輩、キルカ、ほくとの順)、そこで画面を縁取るように線が引かれているのがわかるだろう。この線の色は、こよりが紫、あがりが赤、ハナビは黄色、ムネムネ先輩は黒、キルカがピンク、ほくとは水色となっている。

ここで気付く。ハナビとほくとはいいとして、その他の4人は色が個人に充てられた色(髪色)と異なっている。さらによく見ると、あがりとこより、そしてキルカとムネムネ先輩がそれぞれお互いに色を交換した形になっている。これが意味するところは、あがりとこより、キルカとムネムネ先輩がそれぞれペアであること、そして、記号的な表現が用いられるマンガやアニメにおいては自らのアイデンティティとも言える、大切な「自分の色」を交換するということは、その二つのペアにおいてお互いがお互いになくてはならないほどの強いつながりを有しているということを示している。本編を見る限りではハナビとほくともペアになってよさそうなものだが、どうやらこの二人は少なくとも今のところは、前述の二ペアほどには強いつながりはもっていないということらしい。

そして、OPの同じカットの同じ縁取り線を見れば各々に充てられた記号も見て取れる。件の縁取り線は画面と同じ長方形であり、よく見ると一瞬変化しているのがわかるが、その変化はキャラクターによって違っている。こよりは丸、あがりは矢印、ハナビはトゲトゲ、ムネムネ先輩はおっぱいのような半円、キルカは十字、ほくとは湯気のような形である。もはや言うまでもないが、これらがそれぞれのキャラクターに充てられた記号である。まず、こよりの丸は髪の左右につけたおだんごを表しているものと考えられるか。あがりの矢印は上で言及したとおりである。ハナビのトゲトゲも髪型からきているのだろう。ムネムネ先輩の半円はおっぱい。キルカの十字はカットマンというプレイスタイルを表したものだ。ほくとの湯気は彼女がしゃべるときに画面に出てくる湯気である。

もちろんこれらのイメージカラー、イメージ記号はOPだけでなく本編でもそれを見ることができる。このように、各キャラクターを表す記号的な表現はかなりはっきりと画面に示されている。もちろんこうしたキャラクターと記号とを結びつける表現方法はどんなアニメにも多少なりともあろうが、このアニメにおいてはそれが意図的に多用され、強調されているということがはっきりと言える、そう考えるのである。

 

第二章 キャラクターと名付け

 ・第一節 メインキャラクターの名付け

第二章では「名付け」について考えてみたい。まずはメインキャラクターについてである。

まず「上矢あがり」である。

上矢の「上」はもちろん第一章でも言及した彼女の上昇志向とつながる。「矢」は彼女を表す記号たる「矢印」だ。「あがり」は「上がり」と通じ、こちらも彼女の上昇志向を示す。名字にも名前にも出てくるのだから、彼女というキャラクターにとって「上昇志向」はよほど強い意味をもっていることが察せられる。さらに「上」の字は彼女の得意技であるループドライブとも通じている。

次に「旋風こより」。

「旋風」は「旋風(せんぷう)」、雀が原中学卓球部に彼女がやってきたことで部に旋風が巻き起こったこと、ひいては女子中学卓球界に旋風を巻き起こすことをも予感させる名づけだ。「こより」については、おそらくは紙縒、クシャミをわざと出すために使われるアレである。どうやらこの紙縒、丈夫な紙を原料にしたものは冊子の綴じ紐や、髪を束ねるために使われるらしい。つまりはこの雀が原中学卓球部を束ねる、そういった意味が込められていると思われる。

「ムネムネ先輩」(大宗夢音(おおむね むね))。

言うまでもなく彼女の持つ豊満な胸が生まれたときから約束されたような名付けである。本名の大宗夢音も、「大きな胸」、あるいは「おムネ」と通じる。(どうでもいいが後者の言い方はクレしんっぽい) 身体的特徴だけでなく、彼女の持つ包容力や母性と強くリンクした名付けとなっている。

「後手キルカ」。

「後手(うしろで)」の名字はコートの後ろで戦うカットマンとしての戦い方とつながる。そして「キルカ」は「切る・斬る」でありこちらもカットマンという彼女のプレイスタイルを表している。彼女はこうした名付け、そして前述の記号も含め、カットマンというプレイスタイルをこれでもかというほどに強調されているのがわかる。

「天下ハナビ」。

「天下」はお天道様のような明るい性格と通ずる名づけか。「点火」とも通じて彼女の速攻型というプレースタイルを表しているともとれる。「ハナビ」も「花火」のぱーっと明るい性格を表しているだろう。「花火」に「点火」とすればしっくりきそうだ。

「出雲ほくと」。

「出雲(いつも)」はしゃべるときに「いつも」湯気(=「雲」)が「出」るところ。「ほくと」はそのときの擬音「ほくほく」であるだろう。「ほくと」はおそらく北斗七星の「北斗」と通じると思うのだが、浅学にして天体に関する伝承などの知識には乏しいため、こちらとの関係は指摘することはできない。いずれ明らかにできるかもしれないし、わかる人はすでにわかるのかもしれない。もしかすると名付けに北斗七星との関わりはないのかもしれないが。

 

 ・第二節 モブキャラクターの名付け

続いてはいわゆるモブキャラたちの名付けについてである。このアニメにおけるモブ、それはすなわち雀が原中学卓球部員たちのうち、上述のメイン6人以外となる。

では彼女らの名前をエンドクレジットや校内ランクの表から引いてこよう。これで全員ではないが、次のようになる。

「田口たんぽぽ」「佐々木さつき」「吉川よもぎ」「鈴木すみれ」「湯川ゆり」「結城ゆず」「角田つばさ」「檜山柊」「桜田さくら」「七瀬奈緒美」「八戸はつみ」「宮藤久美」……(※)

これらに共通する特徴は何であろうか。まず気づくことは、名字の読みの一文字目、そして下の名前の読みの一文字目が一致していることである。そして下の名前を見ると「たんぽぽ」「さつき」「よもぎ」「すみれ」「ゆり」「ゆず」「さくら」、そして「柊」は植物の名前であり、「つばさ」「はつみ」「奈緒美」「久美」については特に何というものはなさそうである。

上述のうち「田口たんぽぽ」から「結城ゆず」はエンドクレジットにCVと一緒に表記されているキャラクター(Aとする)、「角田つばさ」「檜山柊」「桜田さくら」は1話での校内ランキング表で一桁順位にいるキャラクターのうち前述のキャラを除いた3人(Bとする)、「七瀬奈緒美」「八戸はつみ」「宮藤久美」(Cとする)は5話でキルカが新入部員として入った時点での校内ランキング表から名前が読み取れたキャラクターたちである。

(A)はCVが記載されているので、日ごろからダメ絶対音感を鍛えている諸兄においてはある程度は判別可能であろう。本編を見ればおわかりのように、彼女らはメインキャラクターたちにあこがれる一年生たちである。そうすると、名前が植物の名前からとられていて、かつひらがなというのが一年生に共通する点と考えられる。つまり(B)のうちの「桜田さくら」も一年生であることが推定されうる。(C)はキルカたちが一年生ということを考えるとキルカの一年あるいは二年先輩と考えられる。(キルカはこの時点で彼女らより下の順位にいるので、彼女らがキルカと同学年であるなら、今の時点での卓球部において少なくともランキング表に名前くらいは出るはず) 名前が共に漢字になっている「七瀬奈緒美」と「宮藤久美」の二人は同学年であろうということ、またランキングからも考えると、二人はキルカの二年先輩、「八戸はつみ」が一年先輩という推測が妥当か。(B)の「角田つばさ」と「檜山柊」はどちらかが(今の)二年生、もう片方が三年生と思われるが、ここに挙げただけではどちらがどうとはっきりとは言えない。

このモブの名付けに対する考察が何を意味するかは次章に譲りたい。

 

(※)「角田つばさ」について、1話エンドクレジットには「角田つばき」という名前が見えるが、上述の、1年生は植物からとったひらがなの名前であるという考察と合わせて考えると、「角田つばさ」は作画段階でのミスであり、「角田つばき」が正しく、彼女は1年生というのがおそらく正しいと思われる。

 

第三章 記号と名付けによって表出されるメインキャラとモブキャラの差異

以上見てきたことから何が言えるだろうか。まず一つは、メインキャラに対する豊富な記号の付与、あるいは名前への意味づけにより、視聴者にとってメインキャラクターの名前と性格、プレイスタイル、そして顔を一致させることが非常に容易になる、ということである。キャラクターの名前を覚えること、そしてその名前と顔や性格を一致させるということは、人によって得意不得意はあるだろうが、多くアニメを見ている視聴者でも意外と難しい。逆に多くアニメを見ているがゆえに、それらのアニメの登場キャラクターの数は膨大になり、かなり意識しなければメインキャラでも名前がスッと出てこないということはまれなことではない。

まだ5話時点ではあるが、私でなくても視聴者はおそらくメイン6人の顔と名前、そして性格やプレースタイルを相当一致させて覚えられているのではないだろうか。

そしてもう一つには、メインキャラとモブキャラの明確な差異である。

第一章、そして第二章第一節でメインキャラたちについてみたとき、その記号や名付けは個人に属していた。つまり、それらは彼らの個性を際立たせるために働いているのである。それに対し、第二章第二節でモブキャラの名前について考察を加えたとき、私は個人について触れることはなく、「学年」というくくりでしか見ていなかったことを感じていただけただろうか。それは私の恣意によるものではない。つまり、モブキャラたちの名前には彼女らの個性とつながるものはなく、ただ学年への帰属が察せられるというのみなのだ。その上、モブキャラたちには全員に共通した特徴として、上述のように「名字の読みの一文字目と下の名前の一文字目が一致する」というものがある。この無味乾燥で機械的な特徴は、個性とは明らかにかけ離れている。彼女らは名付けられた瞬間からモブであることを宿命づけられ、決してメインキャラに這い上がることはできない。髪型や小道具などではなく、あろうことか最も属人的である「名前」にそれが刻みつけられてしまっているのだ。

名前に関して言えば、本編中、モブキャラたちは盛んにメインキャラの名前を呼び、憧れ、もてはやす。その一方でメインキャラたちがモブキャラの名前を呼ぶシーンはどうか。もちろんないわけではないが、比べてみれば極端に少ないのがわかるだろう。ここにも明確な差異が見てとれる。強い言い方をすれば、もはやこれは壁、溝、断絶とまで言ってもいい。他の部活アニメ(作品)(≠部活モノ)であれば、いわゆる控えの選手にもスポットライトが当たったり、控え選手と主力選手の間の交流、わだかまりなんかが描かれたりすることもあるわけだが(ex:『ハイキュー!!』、『響け!ユーフォニアム』など)、『灼熱の卓球娘』においてそうしたエピソードはまずありえないことになる。モブキャラはあくまでモブキャラであり、メインキャラをもてはやし、メインキャラの強さを際立たせ、試合の時には実況を担当し、メインキャラによる解説の聞き手となるのがその役割なのだ。一方メインキャラは個性を爆発させ、メインキャラたちの中での交流を主としつつ成長し、戦う。

このアニメでは、控え選手なりの矜持のような甘っちょろいものは一切排除されているのだ。そもそも団体戦メンバーも確実な予想ができるし、団体戦メンバーを選ぶこと、選ばれること、選ばれないことによる悩みや苦しみなどはこのアニメに関してはお呼びでない要素なわけだ。これらのことを考えると、校内ランキングなる制度(=実力主義)が定着していることにも必然性が生じる。 

 

○おわりに

以上書いてきたが、一つはっきりさせておきたいことは、私はこのアニメのこうした特徴を苦々しく思うものではまったくないということだ。大げさな言い方をすれば、私はこのアニメに魂を揺さぶられているほどにこのアニメを楽しみ、評価し、感動している。私は純粋に強さを求め、勝負を楽しみ、感情を昂らせる彼女らにあこがれ、魂を揺さぶられ、そしてやはり、自分が決して歩むことのできなかった姿にただただあこがれているのだ。そんな中では、モブをモブとして閉じ込めるということは言い方は悪いのかもしれないが、望むところなのである。

勝負の世界は厳しい。それは中学校の部活とて同じ、いや中学校の部活だからこそ厳しい勝負の世界があるのかもしれない。弱者に希望を抱かせる余地すら、そして絶望を抱かせる余地すらも与えない、そうしたこのアニメのある種一貫した姿勢を、私は評価したいのだ。

 

 

灼熱の卓球娘』については、なんといってもOPの出来が抜群すぎるほどに抜群、出色すぎるほどに出色であり、このアニメの魅力の大きな大きな一つだと思っているが、今回に関してはそこへの言及は我慢させていただく。もちろんEDも名曲だ。

ところで、6話からはいよいよ他校との試合が始まる。他校の選手に付与された記号、そして名付けにも注目したい。

 

 

今回、記事がなぜか論文風だったのは自分がやるべきことをやっていないことへのせめてもの贖罪のつもりである。もちろん、これにはなんの意味もない。

 

 

(※11/07追記↓)

 OPから見られるこよりに充てられた記号「丸」だが、髪型というよりかは卓球のピンポン球と考えるほうがいいだろう。恥ずかしながら5話を見返して、最後のこよりが月をピンポン球のようだと指さすシーンを見て初めてそれに思い至った。まだまだ精進が足りない。